達人伝|王 欣太の歴史漫画・キングダムとの比較と老荘思想の解説

漫画

こんにちは!

三度の飯より漫画好き、おでん正宗です。

世の中には達人と呼ばれる人が一定数いますが、

みなさんは達人ってどんな人だと思いますか?

ある分野の能力はものすごいんだけど、ちょっと変わってて、

付き合うのは大変なイメージじゃないですか?

中国の春秋戦国時代、つまり戦乱の時代に、

あまたの達人(変人)たちを(しかも並みの変人ではありません)

有名な思想家荘子の孫である主人公荘丹(そうたん)が、

マネージャーとしてまとめ上げていく、

主人公の身になって考えると実に大変そうな、

でも漫画で読むととんでもなく面白い!

この記事ではそんな漫画「達人伝」のご紹介をします。

また、同時代の中国を舞台にした漫画に「キングダム」がありますので、

「達人伝」「キングダム」の比較もしてみたいと思います。

そして、荘子といえば、中国の思想・哲学のひとつ「老荘思想」荘子です。

達人伝」は、「老荘思想」ついて知識があるとより面白く読めると思いますから、

この記事では中国の「老荘思想」についても解説したいと思います。

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「達人伝」の書籍情報

  • 題名:達人伝(たつじんでん)
  • 作者:王 欣太(きんぐ ごんた)
  • 掲載:漫画 アクション
  • 出版:双葉社
  • 既刊: 29巻(令和3年6月8日現在)

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作者情報 王 欣太(きんぐ ごんた)

王 欣太(きんぐ ごんた)ってどんな人?

1962年生まれの日本の漫画家、男性。

大学卒業後は商社の営業として働いていたが、わずか2年で会社が倒産。

その後、デザイナーの仕事をしていました。

本人は「会社が倒産していなければ漫画化にはなっていなかった」と話しているそうです。

そうしたら、「達人伝」は読めなかったかもしれないですね。

王 欣太(きんぐ ごんた)の代表作

蒼天航路(そうてんこうろ)

原作・原案は李學仁。

三国志の曹操が主役の人気作で単行本は全36巻(極厚版全12巻)、

1994年から2005年にかけて講談社のモーニングで連載されていました。

2009年にはアニメ化もされています。

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「達人伝」を同じ春秋戦国時代の漫画「キングダム」の比較する

ほぼ同時期の春秋戦国時代の漫画に「キングダム」があります

こちらも良作・名作ですが、時期的には「達人伝」の方が少し先になります。

登場人物も一定数かぶってますから、比較しながら読むと面白いです。

キングダム|中国・春秋戦国時代の歴史漫画の最高傑作|漫画・アニメ
中国、春秋戦国時代の歴史漫画「キングダム」の紹介記事です。

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主人公を比較

「キングダム」の主人公(しん)は、孤児で己の知勇と運で成り上がっていくのに対し、

「達人伝」の主人公:荘丹(そうたん)は、架空ですが有名な思想家の荘子の孫です。

作中でも祖父である荘子の威光がしばしば見られます。

逆に考えれば「達人伝」の主人公には、

祖父の威光に見合う主人公でなければならないというプレッシャーがありますよね。

主人公たちの立ち位置を比較

キングダム」の主人公は、秦の武将として成り上がっていきます。

準主人公の政(せい)こと嬴政(えいせい)は、

秦の始皇帝なんですからガチの秦サイドです。

一方「達人伝」の主人公や達人たちの立場はアンチ秦です。

作品テーマを比較

キングダム」が孤児の主人公の成り上がり物語とすれば、

達人伝」は秦の法家思想(画一的)と、

達人たちの老荘思想(多様性)との対立物語

多種多様な達人たちが、秦という画一化を押し進める存在と対抗するために、

荘子の孫である主人公を旗印にまとまっていくという物語。

だから、おでんは「達人伝」の主人公である荘丹が、

次第に超能力者みたい描かれ始めたのは、あまり好感していません。

あくまでも単に懐の大きいマネージャー的な存在であって欲しいと思っています。

主人公を導くメンターたちを比較

メンターとは仕事上や人生における指導者・助言者的な人物のことですが、

「キングダム」における、主人公のメンターは、なんといってもあの人でしょう。

そう、王騎(おうき)です。

王騎は秦の大将軍ですが、主人公に様々な助言を与え成長を促し、

最後には自分の後継として、主人公に自身の矛(ほこ)を託しました。

いやぁ、あのシーンでは、おでんも漫画読んで男泣きしてしまいました。

最初はイロモノっぽかった、王騎があんなに格好良い人になるとは・・・

一方、「達人伝」で主人公のメンターといえるのは、

主人公の祖父である荘子なのでしょうね。

作中で荘子はすでに亡くなっていますが、

主人公の生き様に大きな影響を与えています。

「達人伝」と「キングダム」最大の敵を比較

キングダム」で主人公達の最大の敵となるのは、

趙国の宰相で三大天の李朴(りぼく)。

一方「達人伝」では秦の大将軍、白起(はっき)

どちらも知勇に優れたキャラクターで、秘密があるという点で良く似ています。

達人伝」と「キングダム」で同じ春秋戦国時代とはいえ、

少し時期がずれており「達人伝」の方が前なので、

キングダム」の中で白起は過去に伝説的な活躍をした将軍として描かれ、

達人伝」の中で李朴は登場していません。今のところ。

「達人伝」と「キングダム」に共通するキーパーソン呂不韋(りょふい)

達人伝」と「キングダム」に共通するキャラクターで、

キーパーソンの呂不韋(りょふい)という人物。

まさに黒幕という表現がぴったりくる人物です。

敵とも味方とも断定できない位置にいて、いつも良くも悪くも大きな影響を与えてくる人物です。

達人伝」の方が少し時期的には前ということもあって、

キングダム」では語られなかった呂不韋の前日譚も描かれています。

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「達人伝」は老荘思想の知識があった方が面白く読める

本作の主人公は架空の人物で荘子の孫ですが、

おでんは、老荘思想が大好きなんですよ。

例えば、

老子「唯と阿と 相去ることいくばくぞ」

意訳:「はい」と「あーい」という返事でどれほどの差があると言うんだ!やたらに礼儀作法にこだわると疲れちまうよ。真意さえ伝われば良いだろ!

「面倒くさいから、堅いことゆうなよ。意味が伝われば良いだろ!」

って、すごく良いでしょ!

荘子「三十輻一轂を共にす。某の無に当たりて、車の用あり。埴をこね、以て器を為る。某の無に当たりて器の用あり。戸を鑿ちて、以て室を為る。某の無に当たりて、室の用あり。故に有の以て利をなすは、無の以て用をなせばなり」

意訳:車輪は真ん中には穴が開いているから車輪として機能する、器の中は空っぽだから中身を入れることができる。壁をくり抜いて戸や窓を取り付けて部屋として機能する。無だからこそ機能するものがある。

「一見役に立ちそうにないあいつも、いないと困るんだぜ!」

ほんとそれ!

このことを分かっている人はすごく少ない。

多くの人は自分より劣った人を馬鹿にしたり、存在価値を認めようとしない。

実はその人たちもちゃんと役に立ってるの。

能力主義やリバタリアンと呼ばれる人達はそのこと分かってないよね。

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秦 vs 達人たち、法家思想vs老荘思想の対立が面白い

おでんが思うに、

秦と達人たちの戦いは画一性多様性との戦いです。

秦は厳しい法の下で画一性を重んじ、

秦以外はゴミとばかりに虐殺を行います。

達人というのは専門家ですから、

特化した能力を持つ代わりに変人なわけですよ。

秦の作ろうとする画一的な世の中は、

達人(変人)たちには住みにくい世の中ですよね。

達人たちは基本的にはバラバラですから、

秦と戦うにはマネージャー的な役割をする人が必要ですよね。

それが、本作の主人公で老荘の思想だと思います。

秦と達人たちとの対立は、

当時主流だった法家の思想老子や荘子の思想(老荘の思想)との対立で、

それが、本作のドラマだと思います。

余談ですが、

おでんは、法家や儒家(孔子)を今風に言うと、

「意識高い系」とかって茶化しているのが老荘だと思うんですよね。

おでんは、専門家とかじゃないし異論はもちろん認めます(笑)

意識高い系はなぜ揶揄されるのか?2500年前の思想家、老子が答えを知っていた。
こんにちは!最近「意識高い系」とかっていう揶揄(やゆ)をよく聞きませんか?意識が高いののどこがいけないの?と思う人もいるでしょう。しかし、そのような揶揄を受ける人は、きっとどこか「わざとらしい」感じ...

主人公達をメタ的な視点で見る楽しみ

ベースに老荘思想があるからだと思うんですけど、

主人公達、作品世界自体をメタ的な視点で見る楽しみもありますよね。

秦も達人たちも、人間て小賢しいなぁって思いながら見る。

老子って自分が有名になるのが嫌で嫌で隠遁しちゃうし、

自分の教えを書物に残すことも嫌がったんですよね。

別に老荘思想を知らないと達人伝が楽しめないわけじゃないんだけど、

知っておくと面白味が増すかなっていうポイントを2つ書きます。

無為自然(むいしぜん)

老荘には無為自然という考え方があります。

人も宇宙の一部、

身も心も自然な状態でいれば、

宇宙と一体となって生きることができる。

混沌、七竅に死す(こんとん、しちきゅうにしす)

作中にも出てくる寓話なんですけど、

南海の帝「儵(しゅく)」と北海の帝「忽(こつ)」がいて、中央の帝は「混沌(こんとん)」といった。

「儵(しゅく)」と「忽(こつ)」はともに束の間の意味で人間の短い生を象徴しており、

「混沌(こんとん)」は万物が形を成さずにさまよっている様と考えてください。

「儵(しゅく)」と「忽(こつ)」は混沌の支配する中央で面会し、「混沌(こんとん)」はこれを歓迎した。

「儵(しゅく)」と「忽(こつ)」は「混沌(こんとん)」の恩に報いようと、

「混沌(こんとん)」が視聴食息の楽しみを得られるようにと、

善意から人間と同じように7つの穴をあけようと計画する。

二人は1日に1つずつ穴を穿ち、

七日目に「混沌(こんとん)」は死んでしまった

という話なんです。

要約すると「人間が良かれと思ってやったことが自然本来のあり方を破壊して何でもないものにしてしまうことがある。」ということです。

今まで老荘に触れたことのない人は、

この2つのことを抑えて読むとより楽しめるんじゃないかなぁって思います。

・・・

きっと老子、荘子に言わすとこの記事が作為的で嫌!って言われちゃうんです。

老荘を語るときは、どうしてもこのジレンマが付き纏いますね(汗)

まぁ、自分の教えを書物に残すのを嫌がった老子も、

最後の最後で関所の役人に頼まれて「老子道徳教」という書物を書いてしまうんです。

本人もこのジレンマからは逃れられなかったわけですよ。

漫画はエンタメですから、

あんまりアカデミックになりすぎても楽しめなくなっちゃいます。

ツッコミは自分が楽しめる範囲で入れつつ読みましょう。

まとめ

王 欣太「達人伝(たつじんでん)」の記事でした。

おでんは、この作品のテーマは

「老荘思想」「多様性の肯定」「無用の用」なんじゃないかなぁって思うんです。

これらを魅力的なキャラクターが物語に織りなしていく。

中国の春秋戦国時代は楚漢戦争時代や三国誌の時代よりドラマチックに思いますが、

まだこの時代を取り扱った漫画や小説って少ないですよね。

これから、どんどん面白い漫画や小説、映画が作られると良いなって期待しています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

では、また!

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